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アレス動物医療センター

あとから大御所登場

2021/9/2

 病院の待合室を見渡すと、大体8割くらいの飼い主さんは女性の方で、男性の方は圧倒的に少ないのです。
 育児と一緒で、まだまだメインはお母さん、ということなのかもしれません。

 先日尿に血が混じるといううさぎさんが来院されました。
 年齢は5歳。
 頻尿もなく、食欲もある。
 血が混じる日もあれば、混じらない日もある。
 初めて出血したのはもう1年も前ということで、出血する人しない日を繰り返しながら、飼い主さんはとうとう意を決して病院にやってきました。

 シチュエーション的にはどう考えても子宮がんの可能性が高い。
 それ以外の可能性としては膀胱炎や尿石症ですが、やはり子宮がんの可能性が一番です。

 連れてきたのは50代半ばくらいの女性の方でしょうか。
 うさぎの子宮癌の発生の多さ、手術のリスク、転移の可能性、手術をしない場合の選択肢、入院を含めた治療費などなど、かれこれ20〜30分ほどインフォームドコンセントをしたでしょうか。
 何しろ治療のリスクは高いけど、基本的に治療は手術の一択。
 でもすでに症状が出てから1年もたっているので、転移の可能性も否定はできない。
 否定はできないけど、やらざるを得ない。
 ただこのあたりからは飼い主さんの価値観にもかかわる内容なので、と飼い主さんに誤解を与えないよう、注意深く説明をさせていただきました。
 
 お話をしながら、飼い主さんの表情が「これはやっぱり手術をしなければいけないのでは」と決心のようなものが現れ始め

「では、手術をされますか?それとも…」
と最後の締めに取り掛かったあたりで、診察室の扉がガラッと開き
「おい、いつまでやってるんや」
と不機嫌そうなお父さんが登場。

『いや、オトンいたんかい!』と内心思いながら、もう一度お母さんに話を切り出そうとすると
お父さん「どうしたんや?」
お母さん「…子宮がんの可能性が高いんだって」
お父さん「はぁ!?」

 で、お父さんはおもむろにお母さんの隣に座って
どういうこと?どういうこと?
と僕とお母さんの顔を交互に見る。

気を取り直して
「手術をされますか?それとも…」と続けようとすると
「はぁ!?手術!?」とお父さん、プチパニック
そらそうでしょう。
 こちらは内心診察を始めたところから子宮がんの可能性は想定していたわけで、飼い主さんがパニックを起こさないよう、冷静に判断できるよう、検査前からある程度子宮の病気の話を振って、少しずつ心の準備をさせて、30分もかけて最後の締めのトークに取り掛かっているわけです。
 それを前振りも聞かずに、いきなり「子宮がん」だの「手術だの」という単語が耳に入れば、「なんで?なんで?どうして??」となるのは、そらそうなのです。

 で、話が全く進まなくなってしまったので、しょうがないので一からインフォームドコンセントのやり直し。
 待合や車の中で順番待ちをしている飼い主さんに、心の中で手を合わせながらまったく同じ説明をやり直すのです。

 ですが僕ら獣医師だって、別に徳を積んだお坊さんでも何でもないわけで、内心思っているわけですよ。

『参加したいなら、最初っから診察室にいろ!』と

 これコロナだから、密を避けてお父さんが気を利かせてくれた、とかいう話ではなく、コロナ以前から非常によくあるパターンなのです。

 積極的に診療に参加してくれるお父さんも当然いるのですが、大多数のお父さん方は
【俺は関係ない】という体で待合室で待っていたり、車の中で待っていたり

 で、あまりにお母さんがなかなか出てこなくて、いらいらしながら診察室に飛び込んでくる。

 で、途中参戦のくせに、詳しく話を聞きたがる。

『最初っからそこにいろ!』と聖人君子でも何でもない僕は、笑顔でそう思っているのです。

 もしこの文章をご覧になっているお父さんがいたら(そもそもこのコラム読んでるような人は、最初っから診察室にいるでしょうが)、お願いが一つあります。

 診察室には最初からお母さんと一緒にいてください。
 それがいやなら、ひたすら大人しく車の中で待っててください。  


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