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アレス動物医療センター

うさぎの麻酔は危険か?

疑問、質問

 3月くらいに口から出血することがあり、病院で口に炎症が起きていることがわかりました。
 出血は1日で止まり、病院での診察でも化膿には至っていないとのことで、何日か通って治療は終わりました。また、元気に動く日も見られるようになってきたので、私としては、薬などに頼らず、自然に良くなってきたら一番良いと思い、それ以上病院には連れて行きませんでした。
 しかし最近になり、よだれを大量に出してじっとしていることが度々あったので、再度病院に行き、レントゲンの結果、奥歯が歯茎を圧迫し、炎症を起こしていることがわかりました。その病院では、しばらく炎症をおさえる薬を使い経過を見て、良くならないようなら手術することになると言われました。
 そこの先生には、うさぎは麻酔が効きにくく、手術には非常に危険が伴い、成功率は0か100、生きるか死ぬかだと言われました。
 私が先生にお尋ねしたいのは、うさぎの手術は本当にそんなに危険なものなのか、ということです。そこの病院は、やはり犬猫が主流のようで、親切に診てはくれるのですが、ウサギなどの経験はそんなに無いように思われ、私としても、手術となると非常に不安で、決断出来ないでいます。
 ウサギに使用しても安全な麻酔は無いのでしょうか。
 また、歯の手術ですので、確実に出来るような病院などはないのでしょうか。
 
(一部ホームページ用に中略しております)

お返事

 うさぎの手術についてですが、危険ですか?と問われたら、犬や猫、人に比べたら危険です。と答えています。

 全身麻酔というのはウサギに限らず、どれほど医療が発達しても、危険は伴うものです。100%安全な麻酔というものは存在しません。

 しかし、実際の危険性はといわれたら、犬や猫の全身麻酔の手術を1年間で何百匹もやってますが、麻酔で死なせたことはないというのが実状です。
 ただしこれは、たまたま運が良かっただけで、そういう麻酔事故に出会わなかっただけかも知れず、現に日本全国で見れば、麻酔でお亡くなりになるこは何匹かいるはずです。
 非常に低い確率ですが、麻酔でお亡くなりになる方が、世界のどこかしらにいる以上は、獣医師はそれを隠すことはできず、まして絶対大丈夫です、などとは口が裂けても言えません。
 私はそれもインフォームドコンセントの一つと思いますし、大丈夫、大丈夫と、危険性についてはいっさい触れずに何でもやってしまうことのほうが、危険なのではないかと思います。

 ちょっと話を戻しましょう。なぜうさぎの麻酔が、犬や猫より危険かというと、いろいろ理由はあるのですが、一番の理由は呼吸の管理にあると思います。
 犬や猫(多分人間も)の全身麻酔のとき、気管チューブという管を口から気管に直接突っ込んで、その管から酸素やガス麻酔を流し込んで、手術を行います。

 何でこんな痛そうなことをするかというと、テレビドラマと違い、肺に流しいれる麻酔量は常に患者の状態を見ながら変化させ、深すぎず、浅過ぎずの最適な麻酔濃度を維持するのですが、ドラマなどでよく見る口にかぶせるだけのマスクでは麻酔の量を変えても、そのマスクから肺への空間が無駄に広すぎて、思うように肺の中(ひいては体の中)の酸素量や麻酔量をコントロールできないのです。
 しかも麻酔が深くなりすぎて呼吸が止まってしまっても、この気管チューブが入っていれば、すぐその場で麻酔を切って、酸素だけを強制的に流し込み、肺の麻酔濃度を下げて、また呼吸を再開させることも可能なのです。

 ま、早い話、気管チューブという器具は、安全に麻酔を行うために、非常に大きな役割を担っているのです。

 で、ウサギにはこれが使えません(厳密には使える獣医師が少なく、また使えて麻酔をかけたあと体を動かさない固定した手術に限ります)。
 話すと長くなるのですが、ウサギに気管チューブを入れるのは困難な技であり、逆に不慣れな人がやると、のどの奥をつつきまわして状態を悪化させることもあるので、基本的にうさぎの麻酔はテレビドラマでよく見るマスクをはめてやるしかなく、気管チューブは使わないのです。
 (日本にはこれを上手に入れる先生もおり、この技術がもっと一般的になれば、うさぎの手術はさらに安全に行えるようになるのかもしれません。)

 ですから、うさぎの麻酔は、呼吸が止まらないように管理するのがなかなか難しく、そして運悪く呼吸が止まってしまっても、犬や猫のようにスムーズに呼吸を回復させることができないのです(出来ないと言うのは言い過ぎかもしれませんが)。
 では、私はうさぎの手術をしないのか、というと、そうではなく、このマスクによるガス麻酔を行います。今のところは麻酔で死んだ子はいません。しかし、やはり気管チューブが使えないぶん、犬や猫よりも危険性はずっと高いと思っていますし、いつか麻酔で死なせてしまう日が来るのではないかとも思っています。ですから飼い主さんには「ウサギに麻酔をかけるのは犬や猫よりもずっと危険です。」と伝えています。
 しかしいつも次のように言葉をつなげています。
「でも、うさぎは餌を食べないと生きて行けない生き物です。このまま歯が痛くて、死ぬまでずーっと痛く苦しい思いをしながら、お腹をすかせて餓死していくなんて、こんなつらい最後はないでしょう。やって後悔する可能性はたしかにありますが、やらないといつか悔やんでも悔やみきれない日が来るのではないでしょうか?」

 ウサギにはイソフルレンというガス麻酔や、ケタミンという注射麻酔がよく使われます。
 どちらかは必ずどこの病院でも持っているのではないかと思います。その獣医さんが慣れているなら、どちらの(あるいはこれ以外の)麻酔薬でもぜんぜん構わないと思います。
 麻酔は危険ですが、お話の中の症状から想像すると、その危険を犯す価値は充分あるのではないかと思います。

 ちなみに歯の手術というのは、ものによって難易度が違いますので、出来る病院と出来ない病院が出てくるでしょう。
 ちょっとメールの内容だけではよくわからないのですが、おそらく伸びすぎた臼歯の尖った部分を切るだけなのか、あるいは臼歯を抜いてしまうのかといったところでしょう。
 臼歯を切るだけだったら、それほど困難ではないので(と言いながらも結構厄介なのですが)、ウサギを診るという病院ではどこでもがんばれば出来ると思います(たぶん)。
 ただ臼歯を抜くというのは至難の技で(私にとっては)、歯の根っこが化膿でもしてなければ、ちょっとやそっとでは出来ないでしょう。
 またうまく抜けたと思っても歯の根っこが残っていることがあり、その場合また生えてきてしまいます。

 ようは飼い主さんが、麻酔の危険性を理解し、手術のメリットも理解し、どちらを選ぶか、というのがすべてと思います。
 後はその決心を持って、うさぎの診療をしてくれる病院に行くだけです。

 蛇足ですが、歯を切るという作業の場合、伸びるたびに切ることになるでしょう(つまりそのたびに麻酔をかけることになるでしょう)。しかしこれを恐れていては、歯並びの悪いうさぎは飼えません。

 かなり、私の私見が入っていますが、こんなところです。
 何かしらの参考にしていただければと思います。


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