「薬は用法用量を守って」というのは当たり前のことですが、意外とできない飼い主さんもいるものです。
言われた量の半分飲ませれば、半分くらい効果があると本気で思っているようで、医学的な知識がある人間からすると「んなわけあるか」と思うのですが、素でそう思っている方がたまにいます。
ちょっと小難しい話になりますが、薬には有効血中濃度というものがあります。
要は薬を飲んでも、その薬の血液内での量が一定に達さないとまったく効果がないということです。
例えば有効血中濃度10という薬があるとします。
血液中で10を越えれば効くけれど、9以下では全く無反応ということになります。
これに対し6の薬を1日2回飲ませるとします。1回目に薬を飲ませた時にはまだ体に入るのは6なので効きませんが、2回目飲ませた時には12になる(実際は体から出ていく分があるので10くらいになっている)ので、ここでようやく効果が出ます。
この後身体から出ていく分を補って、常時10を越えさせるために朝晩薬を飲ませ続けなければいけません。
砂糖を半分にしたから、甘みも半分になるとかいう話ではないのです。
0か10であって、6ではまったく意味がないのです。
ちなみに一日1回の薬はいきなり12(2回分)を飲ませても副作用が出ないくらい安全域の広い薬ということになります。
先日とある患者さんが来院されました、小さいころから通われていてもう10年以上の患者さんです。
いろいろ病気があって、昨年の秋から複数の薬を飲んでらっしゃいます。
少しでも減らせる薬は減らそうと血液検査を繰り返しながら状態をチェックして、薬を増減しながらやってきました。
この量だと数値が悪化するけど、この量を続けると副作用が心配。この量だと食欲が落ちるから、これ以上は減らせない。
そんな微調整を半年以上やっています。
先日薬を減らしすぎたせいでまた食欲が落ちたので、増量し、また食欲が戻ったので、「やっぱりやめちゃダメなんですかね。そしたら追加のお薬をお出ししますね。」とお伝えしたところ飼い主さんから衝撃の一言が帰ってきました。
「お薬半分しか飲ませてないので、まだたくさんあります。」
「えっ!?いつから?」
「ずっと、はじめから。薬をたくさん飲ませるのが心配で…」
「ずっと?去年の11月から?」
「11月から」
「…」
あまりにあっけらかんと、悪びれずに宣言する飼い主さんに、言葉も出なくなりました。
血液検査と症状に一喜一憂し、一生懸命考えていた薬が実は半分飲んだ結果だったとは。
そら薬の効きも予想通りにならないはずだ…
もちろん薬に不安を感じる気持ちはよくわかります。
何なら僕らのほうがよほど副作用の怖さを知っています。
それでもなお必要な時に、必要な薬を最低限で出すよう努めているつもりです。
不安なら不安と言ってもらえば、一生懸命説明しますし、もし僕のことが信頼できないなら、波長の合う別の動物病院さんに鞍替えしても良いです。
小さいころから10年以上通っていて、その程度の信頼感だったのかと、ちょっと言葉にならないくらいショックでした。
何よりこの子は1年近く、飲むべき薬をちゃんと飲めてなかったのかと。
食い止められるべき心不全や腎不全が、ただ無意味な投薬で放置されていたのかと。
薬は2倍飲めば2倍効くというものではありませんし、半分飲めば半分効くというものではありません。
1日2回飲まなければいけない薬は1回飲むだけでは無意味です。
飲ませることに不安を感じたら、とりあえず相談してください。
それでも納得いかなければ他の動物病院でセカンドオピニオン診療を受けてください。
それを悪いとは全く思いません。
プロに相談せずに、素人考えで独断専行が許されるのは命に関わらない事案だけです。
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