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アレス動物医療センター

お義父さんの蕎麦

2022/1/6

 今年もどうにか無事年を越せました。
 正月三が日を過ぎると、ようやくちょっと落ち着いた感じがします。

 病院を年中無休にしてかれこれ18年になります。
 盆も正月もゴールデンウィークも関係なく働いていると、まあ季節感だったり、年の瀬だなんだという感覚もだんだん衰えてきます。
 ましてや最近はテレビもあまり見ず、youtubeやアマゾンプライムばっかり見ていると、年末年始の特番すら見ないのでますますよくわからなくなってしまいます。
 まあテレビを見ても、昨年までかろうじて年末感を残していた笑ってはいけないもなくなってしまい、紅白を見ても大げさでなく知っている人(歌手)が極端に少なく、知っている人がいたとしても曲を知らない。
 あの子はジャニーズの子かしら、EXILE的な若い衆かしら、それとも韓流の方かしらというてい。

 年末に限らずクリスマスだって、
「え?昨日クリスマスだったの?」みたいな感じです。

 一応12月31日から1月3日までは早めに病院を切り上げて、いつも19時までの診療を17時までにしましたが、結局やれ骨折だ、やれ尿が出ないだ、やれゴム草履を飲みこんだだと診療終了後になんだかんだと毎日手術をしていると、帰宅する時間はいつもと大差なかったり。
 富山県みたいな地方ともなると、年末年始やっている動物病院も少ないので、重病患者が富山県中から集まってきてしまう。
 来院数はいつもの半分程度ですが、病気のヘビーさが通常の倍レベル。
 結果余計に疲れたような錯覚すら覚えてしまいます。

 そんないつも通りの季節感のない年末年始ですが、それでも心のよりどころになってくれるものが、かろうじてあります。
 それが「お義父さんの蕎麦」です。

 うちの奥さんのお父さん(なので僕にとってはお義父さん)が5年ほど前から畑で蕎麦を作り始めました。
 山奥の小さな畑で、おそらくそんなに良い環境でもないと思われる土壌でお義父さんの植えた(地面にぶちまけた)蕎麦の実はすくすくと育ち、意外と(失礼)ちゃんと収穫できるようになりました。

 蕎麦の実を挽く臼もないので、遠く製粉所に赴きお金を払って蕎麦粉にしてもらい、蕎麦を打つ技術もないのでにょろにょろと蕎麦が出てくる機械をわざわざ買って、遠路はるばる高岡の我が家まで蕎麦を打ちに(にょろにょろと出しに)年末に来てくれるのです。
 
 この蕎麦がめちゃめちゃうまい。
蕎麦粉にしてもらう費用があったら、蕎麦屋に行ったほうが良いのではないかとか、
二八どころではない量の小麦粉を入れないと形にならないとか、
蕎麦を打つっていうより、にょろにょろ出てくるのを定期的にカットしているだけじゃないかとか(カットしないと延々と途切れることのないえらい長さの蕎麦になる)、
そんなことどうでも良いのです。

 お義父さんがくそ暑い中一生懸命世話をし、遠路はるばる製粉所に行って、雪の中我が家に重い機械を抱えてやってきて、にょろにょろ出てくるそばを適当に切って作ってくれる蕎麦は、たぶんどこの蕎麦よりもおいしいです。
 僕はかなり蕎麦好きなほうなので(多分蕎麦アレルギーですが)、県外も含めて結構食べ歩いているほうだと思いますが、お世辞でなく一番おいしいと思うのです。
 このコラムは嫁もお義父さんも見ていないので、忖度なしの評価です。
 あれを『蕎麦粉の入ったうどん』という奴がいたらぶん殴ってやります。

 あのお義父さんの蕎麦を食べると、どうにか年を越すという気持ちになれるのです。
 骨折の手術で腰が痛かろうが、腸閉塞の猫が病院で大暴れして傷だらけになろうが、1週間以上前から体調が悪いうさぎをほったらかしにしていた飼い主が病院で暴言を吐こうが、
「ああ、ようやく年を越せる」
「新しい年を迎えられる」
と思えるのです。

 お義父さんが蕎麦を作り、嫁さんがそれを茹で、僕が食べる(手伝わない)。
 この幸せな年越しそばさえあれば、来年も再来年もきっと年末年始を乗り越えられると思います。

 ただ年末体調が悪いペットはお願いですから、主治医の先生が休みに入る前に連れて行ってあげてください。


アレス動物医療センター

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富山県高岡市下伏間江371

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