さて、ご質問の件ですが、結論から言いますと、麻酔のリスクもやむなし、というところではないかと考えます。
まず、麻酔の話に移る前に、ウサギの診断治療においては(まあウサギに限らずですが)、常に多かれ少なかれリスクと言うものはつきものであるということをご理解ください。
私は以前ウサギの眼の診察で、眼にライトの光をあてただけでショック死された経験があります(まぁかなり弱っていたというのもありますが)。
人間でもおそばを食べただけで命を落としてしまわれる方がいるのですから(例えとしては良くないかもしれませんが)、ウサギの診察、治療も100%安全なものというものはなく、常にいくらかのリスクというものはそれぞれあるのです。
ただ、光をあてただけで死んでしまうこがいたからといって、ウサギの診察や治療をしないわけにもいかず、常に獣医師は診察のリスク、治療のリスク、ほっておいた場合のリスクを秤にかけ、一番リスクの低いものをその場その場で選択していくしかないのです。
極端な話、診察や治療をするリスクのほうが、放置した場合のリスクを上回るときは、あえて何もしないという選択肢を選ぶのも獣医師の務めと考えています。
で、ウサギの歯きりについて考えます。
噛み合わせの不正があり、ほっておくと伸びすぎて、食餌が取れなくなる可能性がある場合は、処置しないリスク(命のリスク)はほぼ100%ということになります。
つまり、黙って見ていると、いつか餓死してしまうわけです。
では、無麻酔で歯を切るリスクはと言いますと、ときどき急に暴れだすこもいますので、おさえつけると事故を起こしかねず、またきちんと整形できないということもあります(めちゃめちゃおとなしいこは別ですが)。
どれくらいのリスクかと言いますと数値で表すことはできませんが、分かりやすく説明するという意味でここでは1%の危険性としておきましょう(あくまで例えであり、文献上そのような報告があるわけではありません)。
吸入麻酔(ガス麻酔)での歯きりは、注射麻酔よりは安全性が高いと思われますが、それでもリスクは0.1%くらいはあるとしましょう。
ここで3者のリスクを比較すると吸入麻酔の0.1%が一番低いということになりますから、獣医師は吸入麻酔での歯切りを勧めます。
つまり1000回麻酔をかけると、1回死ぬ確率はあるが、それを無視してでも歯を切らねばならないということです。
しかしこのリスクの数値は不変のものではなく、例えば年をおうごとに麻酔のリスクは上がっていきます。
例えば3歳のウサギの麻酔のリスクが0.1%なら4歳では0.2%、5歳で0.3%という形で、どんどんリスクは上がっていきます。
これに腎不全や、心不全など老年性の病気が合わさるとさらにドンとリスクが上がり、5歳でも1から2%のリスクになることもあります。
で、このときに獣医師はまたリスクを秤にかけるわけです。
去年4歳だったときは麻酔のリスクが0.2%で無麻酔のリスク1%よりも下回っていたから、麻酔下で歯切りをした。
しかし、今年は5歳でしかも腎臓の値がとても悪いのでリスクが2%になった。だから今年は無麻酔で歯を切ろう(例えまっすぐ切れなくても)。
というふうに、獣医師はその知識と経験を頭の中でフル稼働させて常にリスクの低い方法を模索し続けているわけです。
ただ分かっているのは、どんなに年をとってリスクが例え80%を越えても歯を切らずにほおっておくリスク100%には敵わず、例えいつか歯きりの途中に命を落とすことがあるとしても、それでも歯は切り続けてあげなければいけないということです。
くどいようですが、先に挙げた数値は何の根拠もない例え話です。
このホームページに5歳のウサギは麻酔のリスクが0.3%と書いてあったから麻酔でしてくれとか、無麻酔でしてくれとか言って、担当の獣医さんを困らせるようなことはしないでください。
獣医師ごとにその経験や得意な方法があり、それぞれに異なったリスクの数値をもっているものです。
また、ウサギの性格や健康状態によってもこの数値は変わってくるもので、これは聴診や血液検査、触診などをして始めて頭に思い浮かべるものです。
担当の獣医さんが麻酔下での歯切りを勧めて来たら、それが一番そのこにとってリスクの低い方法と判断したのだと、素直に受け止めてあげてください。
歯切りのリスクが90%だから、恐いので処置をしないという人は、100%の餓死を選んだということです。
私はそれを愛情とは思いません。